中古住宅の広告では、土地と建物の価格が区別されない

中古住宅の市場にはもうひとつ、建物の品質を軽視しているかのように思われる実状があります。それは中古物件の「広告です。インターネットの物件情報サイトなり、新聞の折り込みチラシなり、お手元に中古一戸建て住宅の物件広告があれば見てください。

価格はどう書かれていますか。3500万円? 4000万円?それはいったい、何の値段でしょうか。土地?それとも建物?そう、物件広告では、土地と建物の区別なく「合計価格」が表示される仕組みになっているのです。

「不動産の表示に関する公正競争規約施行規則」(不動産公正取引協議会連合会)の「住宅の価格の表示」には次のように書かれています。住宅(マンションにあっては、住戸)の価格については、1戸当たりの価格(敷地の価格〔当該敷地が借地であるときは、その借地権の価格〕及び建物〔電気、上下水道及び都市ガス供給施設のための費用等を含む。〕

に係る消費税等の額を含む。以下同じ。)を表示すること(不動産の表示に関する公正競争規約施行規則第日条第認号)。

もちろん、住宅を買おうとする人にとって、「全部でいくらなのか」が重要であることはいうまでもありません。しかし、土地と建物の内訳が示されなければ、それぞれの価格が果たして高いのか安いのか、判断することは不可能ではないでしょうか。

土地の価格を決める要素には、方位や道路付け、形状などさまざまなものがありますが、それは個々の区画の差異を決めるにすぎません。地価は、社会的な経済状況、すなわち景気によって大きく左右されるものです。

一方、建物ももちろん、建築時には資材相場や人件費などで景気の影響を受けます。しかし、特に中古住宅の場合は、建物ひとつひとつの品質や性能、購入後何年住めるか、といったことが評価されるべきではないでしょうか。

しかし、価格決定要因がまったく異なる土地と建物の値段が合計額でしか示きれない現実では、建物の品質と、その適正価格を評価するすべはありません。こうした価格表示が行われてきた背景には「土地及びその定着物は、不動産とする(民法第前条第1項)」という、日本社会における不動産の考え方があるのではないでしょうか。

私たち日本人にとって、長く土地は最も重要な資産でした。1990年代初頭のバブル崩壊以前には、「土地は必ず値上がりする資産である」という「土地神話」「土地信仰」がまかりとおっていたことを覚えている人も多いでしょう。空き家の査定・売却についても参照します。

対して、これまで建物は「土地の定着物」としてしか捉えられていませんでした。前述のように、不動産仲介のプロでも建物に関する専門知識を持つ人は少なく、建物の価格はほとんど築年数によってのみ評価されてきたのが現実です。新築時に坪60万円だった家と坪80万円かけた家とが、5年後に売られるときには同等の値段になってしまうこともありえます。

それどころか、わずか築15~20年程度の建物が価格「ゼロ」とみなされ、「中古一戸建て住宅」ではなく「古家付き土地」として売りに出されるのも珍しいことではありません大事な我が家を売りに出す人にとってみれば、建てるとき、どれほど耐震性や断熱性の確保にお金をかけたとしても、また、住んでいる問、どれほど丁寧に手入れをしてきたとしても、それがほとんど評価されない、ということでもあります。

車には「車検」があるのに、住宅にはなぜ「家検」がないのか?

中古住宅の市場で建物の品質が価格に反映されないのには、根本的な要因があります。それは、建物の品質を判断するための材料がないことです。

そもそも「品質がよくわからない」ことには値段のつけようがありません。先に、「表面から見ただけでは、建物の構造はわからない」というお話をしました。中古住宅の場合、たとえ新築時の設計資料が残っていたとしても、それが本当にそのとおりに施工されているかどうかは、当時の関係者でもなければうかがい知ることはできません。

また、完成した後どんな使われ方をし、どんなメンテナンスが行われているのか、きちんと記録している例はほとんどないでしょう。2007年にリクルート住宅総研が行ったアンケート調査によれば、日本の持ち家層のうち「新築時の設計図書」を「すぐに取り出せる形で保管している」と答えた人は半数に満たず、「検査・点検の結果」については2割にも届きませんでした

買った人も売った人も、幸せになる世の中に

「住宅は個人の持ち物」という意識は住む人自身にも強く、それゆえ「自らの家の品質」に対して、客観的な視点に欠ける傾向があります。

たとえば、家を買うとき、建てるとき、私たちはその選択基準の第一を「自分にとって住みやすいこと」に置きがちです。もちろん、それ自体は悪いことではありません。しかし、「自分のこと」しか考えないために、普遍性に乏しい、

凝った間取りにしてしまったり、快適性や省エネルギー性などの基本性能を軽視してしまったりしては、他人に引き継ぎにくい建物になりかねません。「自分が一生住むのだから、それでいいじゃないか」と思うかもしれませんが、何が起きるかわからないのが人生です。

親の介護や離婚のために生活が一変してしまうこと、思わぬケガや病気によって今までどおりに働き続けられなくなることなど、身近な誰かの身に起きたことは、いつなんどき、自分の身に降りかからないとも限りません。

また、親や子どもの家族と同居することになってより広い住まいに買い替えることや、新天地を求めて住み替えたくなることだってあるでしょう。事実、旭化成ホームズグループの調査では、売買が成立した中古住宅のうち叩%がわずか築5年以下、築10年以下も含めると初%にも及ぶ、というデータもあります。

せっかく手に入れた新築住宅を叩年もたたないうちに手放している方が少なくないことがわかります。それでも、「土地神話」が生きていた時代なら、建物が二束三文にしか評価されなくても、土地の値上がり分で十分元が取れたかもしれません。

しかし、2009年に社団法人不動産流通経営協会が行った調査では、自宅を売った世帯のうち、実に約75%に売却損が発生しています。しかも、その売却損の金額が1000万円以上に上った世帯が約必%を占めているのです。

もしもあなたが家を売らなければならなくなったとき、その家が、買い手がつきにくい市場価値の低い建物だったとしたらどうでしょう?車を買うときなら、多くの人が「リセールパリュー(中古車として売りに出したときの価値)」を考えるのではないでしょうか。

自分の好みより売りやすきを優先して、白やシルバーの無難{資料)旭化成不動産株式会社な色の車を選ぶ人が多いと聞きます。同じように、家を買うときもぜひ、「売りに出したときの価値」を考えていただきたいと思います。それこそが、住まいの「資産価値」なのです。

中古住宅の市場において、建物の品質が適切に評価されないことは、買う人にとっても売る人にとっても不幸です。何十年ものローンを組んで買った家が、万一欠陥住宅だった大事な家を手放さなければならないときに、十分な対価が得られないとしたとしたらどちらも、あってはならないことです。

私たちの生活の基盤であり、大事な財産である「住まい」。買った人も、売った人も、幸せにならなければおかしいのです。そして、そのための市場環境を整えることが、私たち「優良ストック住宅推進協議会」の目標なのです。

自動車ならば、一定期間ごとに点検が義務づけられていて、これを怠れば公道を走ることはできません。中古車として取引される際には、販売前に販売業者が点検・整備するのが一般的です。

売る側も買う側も、走行距離や修理歴など、それまでの履歴を考慮して値付けや交渉を行うでしょう。車には「車検」があるのに、住宅に「家検」がないのはなぜでしょうか。

車は点検・整備を経て市場に出されるのに、住宅の売買では、点検の有無も補修の履歴も顧みられないのはどうしてでしょうか。車は道を走るけれど、家は個人の土地にとどまっていて、住人以外にかかわりを持たないから?

確かに、住宅は個人の持ち物であり、点検も修理もリフォームも、すべて持ち主の裁量に任されているのが現実です。けれども、住宅は一代限りのものとは限りません。子どもに引き継ぐこともあれば、他の人に譲り渡すこともあるでしょう。

次章で詳しく述べますが、これからは住宅の寿命を延ばすことが求められる時代です。家は一義的には個人の持ち物ですが、同時に社会資本でもあると捉えるべきでしょう。